第43章 月は綺麗ですか…江戸川乱歩誕生日10月21日記念
「ごめん」
真綿の言葉に乱歩がそう呟くが、ぎゅっと握った真綿の手は決して離さなかった。
「痛いと」
「ごめんね。
でも、離さない。」
真綿が引っ張られるようにして、乱歩は足早にどこかへ向かっていることは確かだった。
がさがさとビニール袋が揺れる。
しんしんと降る雪はどちらを見るでもなく、街に降り積もる。
「寒いね……」
「嗚呼、寒い。」
「でも、君は温かい」
繋いだ手はいつの間にか乱歩のポケットの中。
その指は乱歩がゆっくり撫で上げて、ぎゅっと繫ぎ止める。
ここにいる。
「温かいよ」
「そう」
はあ、と二人して息を吐く。
雪の降る曇天に吸い込まれて、すぐに消えた。
「真綿は、寒くない?」
「乱歩が温かい」
「そっか」
そのまま福沢邸に戻ろうとしたが、そこでふと乱歩の頭に考えが頭に過ぎった。
「このまま帰らなかったら、福沢さんは心配してくれるかな」
「当たり前だろう。
妾は兎も角、乱歩のことならきっとあの彼は……」
真綿がすっと目を細めた。
鳶色の暗い色をした双眸。
凍るほどに、射抜かれるように冷たい。
「真綿が居なくなっても、きっとそうなって居た」
「ふ。妾はそのような事、望んでいないよ」
気休めにしかならなくてもいい。
真綿は、僕らとこれからも一緒にいてくれる夢を見た。
夢じゃない。
ちゃんとその言葉は、彼女の口から溢れたんだから。
「あ、おうち着いちゃっ……大変、真綿」
「ふむん?」
「福沢さんが家にいないみたい」