第43章 月は綺麗ですか…江戸川乱歩誕生日10月21日記念
「乱歩、まわ……」
スッと襖を開ければ、もぬけの殻となった畳の室内。
急速に頭の芯が冷めていく。
「……!」
どちらかが暴れたりしたような形跡は無し。
つまり合意でどこかへ出掛けた、と自分の脳内は素早く行動を見極めていた。
「全く……乱歩は兎も角」
彼女は怪我の身ではなかったのか。
否、着目すべき点はそこではない。
彼女の主人はこの自分である、などと。
「……浅ましいな。
この私が一体、何を思っているのだか」
帰ったら双方に言い聞かせねばならない。
断りもなくどこか自分の目の届かぬ所に行くなと。
何かあった時、
保護者であり所有者である私が守れないのでは困る。
「出掛けるか」
孤剣士銀狼とさえ呼ばれた自分に、これ以上守れるものがあるのだとしたら。
(…そう、今度こそ守りきるために。)
この手で守ろうとしたものは、
かつての仲間や同僚や、愛する民だったのだろうか。
妻を娶ったことはないが、そろそろ身を固めてはどうかと
当時の政府の上司は口癖のようにぼやいていたな。
それなのに、最後に自分がみたものは
真っ赤になった自分の手と、無惨に転がった上司と同僚たちの首骸だった。
つい先日まで家族のように話していた仲間であった。
自らが犯した罪に気付いた時、
自分は捨て駒にされたのだと歯を食いしばった気がする。
彼女は似ている。
今日出会った仲間が、明日には命のやり取りをするような敵に回っていることなど日常茶飯事の界隈に生きてきた。
だから私は
もう二度と、彼女に彼女自身の仲間を殺させはしない。
自分が味わった後悔も過ちも
二の舞を演じることのないように。
「説却……何処にいるか、あの二人は…」
菫色の羽織を着、福沢も門をくぐった。