第43章 月は綺麗ですか…江戸川乱歩誕生日10月21日記念
「説却……の。
ただ一つ言うのなら、自分の名も判別出来ないような赤子に、
その当時二十数年後の彼が意識に入り込んだなど…」
雪景色は昇った陽の陽気に融けてゆく。
少しずつ。
梅はまだ閉じていない。
良い香りは明けた年に似合うものだった。
夜半に梅は咲き誇り……と彼は呟いていた。
「嗚呼……まァ、確かにねぇ。
神経疑うよ。性格すっごく曲がってそう。
だって、その二十数年後の未来から、生まれついたばかりの君に目をつけた…つけていた、ワケで。」
推測するに、よほどその時代の真綿が何かやらかしただとか、
そういうことがあったから、取り敢えずどうにかしようと赤子の頃に抑止力で話しかけたのかもしれない。
「二十数年後の世界に於いての君に何かを吹き込もうとして、何度も失敗した。
それが続いたから、『なら大人になる前の君にしてみよう』〜って強行突破したんじゃない?」
「そんな無駄の無駄になるような積み重ね、彼奴が…するとは思えぬが……」
歯切れ悪くなる真綿は眉をひそめて乱歩の袖を引く。
「真綿?」
「この話は御終い。行こう」
運河に架かる橋を渡り、
街へと踏み出した二人は雑踏へと足を向けた。