第43章 月は綺麗ですか…江戸川乱歩誕生日10月21日記念
その子は、この世に生まれついた時から、こうなる運命を押し付けられているようでございました。
生を受けた瞬間、因果律と言うものはどう足掻こうと変えられぬものでありました。
「そっか、君も自分の両親の名前すら知らないんだ」
「乱歩は覚えているのよな」
「うん、まあね。」
生き地獄というのはどのようなものに御座いましょうか––––
ずっと、延々と苦しみ藻搔くことを強制させられた未来?
それとも……
人が死ぬことを前提とした救済措置?
そんなものを救済と呼べるのでしょうか。
答えは勿論否。
彼女がこの世に生を受けた時
赤子のその目がみたものは、『一面の花畑』でありました。
だからあれと自分は、数年前に出会った時が初対面ではなかった。
出会うことが決まっていた。
落ち合うことが決まっていた。
彼にとって彼女だけが例外で
彼女にとって彼だけが異物でありました。
どうしようもなく心惹かれる。
抗えぬほどに目線を奪われる。
「鳥類は、その目に留めた者を
親と認識するのよな」
「うん。刷り込みって言う本能行動だよ」
本能。
因果律に導かれ、偶然は強制的に必然へと捻じ曲げられる。
その二人が恋、親愛、そう、『親』愛…
どちらに転んでも
どちらにせよ
それと彼女は落ち合うことが決められておりました。
どうしようなく、運命的に…
「……––––『此れよりは、』」
「ん?」
「妾がね、その彼から言伝されたのさ」
『夜半に梅は咲き誇り、
汝はこれと共に在り
この身は汝の盾となり、
この手は汝の劔となろう
この目は汝の悉くを知り、
この生は汝が命運と共に在る』……
『異能力を使う前には心の中でいいから、これを言うんだ。
誰かのためだと思い込めば、まだ楽になれるよ。』
そう言っていた。
その目が見たのは、花畑だった……
「家族と呼べる存在がいたなら……
ふ、妾ももっと違っただろうに」
「つまり、その生まれた時に垣間見た花畑にいた人は、いま真綿より相当年上?」
「否、過去だ。
その人にしてみれば、妾が赤子だったのは過去。
その人は、未来から花畑を赤子の妾に投影し侵蝕させたのさ」
真綿の言葉に乱歩が眉を寄せた。
「一体、何のために……?」