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威 風 堂 々【文豪ストレイドッグス】R18

第43章 月は綺麗ですか…江戸川乱歩誕生日10月21日記念






……ちりん……



そう、かすかな鈴の音が聞こえた気がした。



ばっと振り向く。

聞き逃してはいけない悲鳴みたいな音…なんて表現はおかしいけど、ふとそう感じだ。




「…いま、鈴が」

僕の言葉に、真綿が今しがた通り越した着物姿の家族を見る。




「鈴?
……嗚呼、あの親子が持っている破魔矢に付いた鈴じゃないのかや」


「そうかも……だけど、」

僕の言葉に真綿がふと白い息を吐く。


その目はさっきの家族でも僕でもないどこかを見ていた。



目線を追えば、雪の重みで枝を弯曲させた梅の木がある。

萎びた小枝からは絶え間なく雪の塊が落ちて、地面にあたっては砕けてゆく。



「あれか」

「あれって、木だよね?」


「ドップラー効果と言うのさ。
実際、鳴っているのはあのような高音の鈴の音ではない」


さくさくと雪を踏んで木に近付くと、確かに、鈴じゃない音だった。
少しだけかがんだ真綿がこちらに目を向けたから、僕も木を見遣った。




「カネタタキ」

「嗚呼、そうさな。
夜行性のはずだが。」

カネタタキという虫は通年いるんだけど、冬はそんなに見かけない。

それに、真綿が言ったとおり夜じゃないとあんまり見ないし、それ以前にサイズが小さいし……


真綿がどれほど目と耳を鍛えているのかが伺い知れた。





「……殺すの?」

「駆除対象、とは聞くが」


真綿の手には多分、殺虫スプレー


それも、虫限定じゃないやつだよね……

人間とか。
動物とか。
金属も錆び付かせちゃうのかも。

彼女のお手製の調合のはずだ。





「でも、生きてる」

「嗚呼、それはそうさ。誰しも生きている。
自然に死を迎えられれば良いのだが、人間大半は疾病だの怪我だの殺人だので老衰死を望めない。」


真綿が立ち上がる。

そして僕に手を差し伸べてくれたから、掴まって僕も立ち上がった。




「いいの?」


「嗚呼。無益な殺生……

とは言わないが、小さないのちを奪ってまで何をしたいのかと問えば、何もしなくて良いだろうさ」


真綿がそう言って、ふと笑う。




真綿は基本的に合理的なんだから、

心配することなんて……ないよね?







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