第43章 月は綺麗ですか…江戸川乱歩誕生日10月21日記念
「何でそんなに、答えてくれるの?」
まだまだ若い乱歩は、4年後の江戸川乱歩より遠慮がない。
否、遠慮というよりは気遣いが薄いと言うべきか。
「……ハ」
ともかく、このくらいで真綿の機嫌を損なうことはないだろうが、とはいえ踏み込まれたくない部分もあろう。
真綿が笑った。いつも通り。
ただそこに、親愛がないだけだ。
「てっきり、教えてくれないかと思ったのに。」
「何故、そう思うのさね」
その問いに乱歩が細めた目を真綿から逸らした。
そして口を開く。
「……僕、君を拾った事は後悔してないよ。」
目の前の、乱歩の腰の高さほどに目がある雪だるまはずっと笑っていた。
「でもね、一度形式上は死んだ君を、こうして別人として扱っているんだ。
あの時、瀕死の君に拒否権は無かったとはいえ君の人生を僕の判断で縛ったんだよ?」
包帯の巻かれた真綿の身体はまだ現役で使える。
敵組織の自爆に巻き込まれ死にかけていた彼女を拾ったのは……
あの日出会った赤い髪の男をも止められなかったことの罪滅ぼしか。
否––––それは、
「……妾はそんな事思っていない」
それは違うだろう。
そう思いたい。
だってそうじゃないと……
目線が足元に行きそうになった直前、そう言われてびくりと肩を震わせた。
「……へ?」
思いもしなかった言葉に素っ頓狂な声が自然と漏れ出た。
乱歩がその翡翠の瞳をまん丸くさせる。
「そ、う……なの?
僕のこと、嫌いじゃないの?
憎くないの?
勝手なことして怒ってないの?
与えられた生は鬱陶しくないの?」
「禅問答さね」
真綿はふと口元だけ、笑みに歪ませる。
僕だったら……
勝手な事しないでって、思うのに?
勝手に死なせてよって、思うのに?
本人の事なんだから放っておいてよって思うのに。
「 妾は滅多に人を憎まないが」