第43章 月は綺麗ですか…江戸川乱歩誕生日10月21日記念
「ねえ、君の異能力ってさ……」
縁側に囲まれる、小さな中庭の雪掻きをしながら乱歩が呟いた。
振り向いた先には、こちらも雪を除ける真綿の姿。
怪我の身でありながらも肉体労働の頭数には入れても良いと言った通り、痛みを感じていなさそうな動作で重い雪を外へと出した。
「…………」
乱歩の声が聞こえていないわけが無いが、何も言わずちらと目線を寄越す彼女は非難しているように見えた。
何故そのような無粋な事を聞くのだと。
「必中、するの?
絶対死んじゃうの?」
「……物理的に遠ざかられたらどうしようもないさ。リーチが届かないからね。ただ……」
庭の隅に積もった雪に、乱歩が木片を埋め込んだ。
真綿がはぁと息を吐く。
行き場のない白い煙はそのまま雪空に霧散した。
「死亡、殺害殺戮、要因……
この順番で相手の因果に干渉する。」
臓器を取り除かれた事による死亡ではなく。
対象を死亡させてから、殺害されたという結果が遅れて来る。
何らかのこと、何らかの要因、理由。
まず『取り敢えず何かの武器で即死した』、
次に『刃物で内臓を強制的に叩き出された』、
遅れて『そういう現象(異能力)だから』。
極端な結果論とも言えようか。
反則も良いところだ。
世界は五分前に作り変えられたという風に……
自分は五分前までは死んでいたのだとしたら、そこに齟齬が生じて自然と辻褄を合わせられ
未来永劫、自分は死亡したままになる。
「ふうん。そりゃ、暗殺にはもってこいってワケだ」
乱歩が手頃な石ころを雪だるまの目に埋めた。
口として飾られる木片は節のところで微妙に折れ曲り、こちらを笑っている。
「発動した異能力を取り止めることは出来ないの?」
「ふむん……妾が動く前に死亡すれば、おのずとキャンセルされるさね。
『対象が死亡する前に異能者が死亡している』。
……そうなれば、だが」
彼女は存外素直に答えてくれた。
こんなこと話してくれないだろうと思っていた乱歩にしては、どうしただろうとしか思えない。
口封じにいつでも殺害出来るということの余裕?
それとも僕自身が興味の対象じゃあないから?
「真綿」
「……何だ」
はあ、息を吐いてからと彼女の手を強引に取った。
「街に出よう」