第42章 倒錯……V
「違うな」
真冬が小さく、嘲るようにも見える薄い笑みを浮かべて言った。
「妾は何もしていない。
同僚の独歩の指示を聞いただけさね。
貴方がそれを向けるべきなのは独歩だったのではないかや」
そう言って何事もなかったように横を通り過ぎ、軍警の事情聴取に向かう。
置き土産にしては爆弾のような物だが、女性は黙ってしまった。
この女性はそんなにも人間と異能力者の差を確固させたいのだろうか。
実に愚かだ、と思ってしまった。
真冬もまた、差別対象になる異能力者である。
この事実を目で見ていないから、先程は素直に礼が言えたのだろう。
「独歩。
男の身元が知れた。
晶と治が今いる大学を中退するつもりだったらしい」
「……成る程、ここでそんな事実が出てくるあたり、今回の大勢が消失した事件も面倒なやつか」
「今更気付いたのか」
今度こそ真冬は、いつも通りの笑みを浮かべた。
からかうような、楽しむような。
これが喪われてはならないと判っている。
先程みたいに、醜い部分に呆れ見放すかのような真冬は
疲れているようにも見えたのだ。
確かにこれが初めてではない。
けれど、それはそういう感じのものではなくて
ずっと昔から頭に過っていたある種の諦観だ。
人間が変わるわけがないという……
「真冬、俺は平気だ。気にするな。
ありがとう」
そう言えば、真冬が腑に落ちなさそうな顔で唇を開く。
「礼は…違うだろう。
単に、ああいう差別的な反応をあからさまにされるのは妾が嫌だったからさね」
そううことにしておいてやろうと呟くと真冬は照れるでもなくふっと笑っただけだった。
俺はいつになれば、真冬に敵うのだろう。