第42章 倒錯……V
「わっ」
外套のポケットにしまっていた携帯が蠢動した。
電話だろうと与謝野女医に断ってから、こそこそ、後ろのドアから講義室を出る。
「真冬?国木田君?」
《妾だ。調査中済まない》
耳元で聞こえてきたいつもの声に、私はほっと息を吐く。
今朝、国木田君と真冬、与謝野女医と私という組まされ方を聞いてほんの少しだけ驚いた。
いや……確かに、国木田君は武闘家だしサポートには真冬が向くけれど、とそこまで思ったところで判った。
乱歩さんと社長以外は、私と真冬が昔からの知り合いという事を知らなかったんだって。
無かった事にしたのは私。
あの日、あの夜、真冬と偶然出会した日のこと。
無かった事にしていいのかと問われて、私は一度良いと答えた。
真冬と私という別人と出会ってしまったのだから。
でも……矢ッ張り、君は私の目の届くところにいてほしかった。
今度こそ、すぐに助けに行けるように。
3年前は目の前で潰えた希望。
森さんに見捨てろと言われた織田作と真冬の命。
私が追いついた時にはもう、遅かった。
「そんなこと、もう二度と…繰り返さない……」
あの夜君に言った事を反故にはさせない。
絶対に。
3回目はもう、許されないのだから。
『好きだよ真冬。君が好きだ。
あの日からずっと君を想っていた。
お慕いしていました』
出会った時からずっと。
だからもう見失いはしない。
どんな手を使ってでも、今度こそ君を助けてみせるから。
この一度が許されるなら、今度は……