第42章 倒錯……V
「異能力……【独歩吟客】!」
手帳に『携帯電話』と書いてビッと破る。
途端に切り離された紙切れから、異能発動の合図である淡いシアンの光が沸き立った。
文字の羅列する帯状の粒子はそのまま紙切れを包み、『携帯電話』が顕現される。
この手帳サイズの、俺が今まで見たことのある万物を顕現させる奇跡。
これこそが俺が保持する異能力。
「て、手帳から…電話……」
「済みません、お怪我が無いようでしたら我々と軍警まで来てくれませんか」
助けた…と言うのは自己満足になってしまうだろうか。
けれども取り敢えず善意で助けた女性は、俺の行動を見て明らかに異物を見る目になった。
嗚呼……こんな嫌な世にもなるものだ。
異能者というだけで人身売買の際に高値が付く。
人智を超えた奇跡に縋る。
それが異能力の本質だろうに。
先程は善意だと宣うたが、坂島は我らが守るべき神奈川県内ではない。
ただ単に……仕事柄、そして良心が
見過ごしてはならぬと訴えてきたから…
……否。
まず、それよりも真冬に連絡を入れなければ。
「……銃を持っている、と仰っていましたが」
女性に問いながら電話を掛ける。
如何に引ったくりの男が健脚だとて、
真冬に背中を追いかけ回されていたら妨害工作を避けるのもままならないだろう。
「え? ええ!
いきなり銃を突きつけられて、あっという間に盗られてしまって……」
小耳に挟みながら、携帯が通じるのを待つ。
「……真冬、走っているところ悪い。
どうやら追っている男は拳銃を所持している模様だ。気を付けろ」
いきなり空から小型の刃なりが降ってくる、
或いは気付けば目の前がシアン色の霧もやに包まれている、とか。
角を曲がろうとしたら、筋弛緩剤の塗料が塗られた鍔無しの折り畳み匕首が吹っ飛んで来たり……とか。
まるで……
どこかの大きな国務め暗殺者の様に、手際も準備も良い。
私邸暗殺者と宮廷暗殺者の違いは大きく分けて一つ。
個人が雇うか、
国が雇うかだ。