第41章 慟哭……IV
「–––………」
かつかつと廊下に荒々しく靴音が響いた。
温室へと通ずる木製の大扉を黒服の部下が開け、それから獣道のような畔を通り、おとぎ話の中にありそうな鉄柵を超える。
金属で出来たアーチ型の精緻な細工が施された両扉の奥
永遠はそこにある、と言われている。
香る花の匂い。
天球に貼り付けられた偽物の蒼穹へと吸い込まれる花びらのつむじ風。
季節的には春の陽気が延々と続く場所。
それがここだ。
腕に抱えた三島は未だ目を閉ざし、痛々しい包帯はその美貌に似合わずやけに目立つ。
「あー、くそっ、邪魔すんなって!」
中也が足元に絡みつく花の蔦や葉を避けながら、花畑へと向かった。
何てことだ、ただ単に眠っているだけのこいつがいるだけで花が咲くのか。
まるで主人を離せ放せと袖を引く稚児のように鬱陶しい。
「菜穂子!三島を連れて来–––……」
シャッと天蓋のカーテンを開けて、その姿を確認した直後。
中也が言葉を切った。
「……菜穂子…?」
確かにいたのだ。
菜穂子は。
ちゃんと、頼んだ通りにベッドの中を温めてくれている。
ただ……
「中也、様。準備は出来ております」
菜穂子が昔の癖で俺を中也様と呼ぶのは、心ここに在らずの時。
言い換えれば、注意が散漫になっているということ。
何を考えているのか、それともいないのかよく判らない目をしていた。
三島にひどく似ている。
嗚呼……結局、もう遅いのかもしれない。
「菜穂子……何を考えていたんだ」
「中原幹部。いえ、失礼致しました。」
菜穂子は笑いも怒りもしない。
菜穂子は歴とした人間のはずだ。
三島は人間ではないが、菜穂子には感情がある。
感情の発露とは人間の一番の長所なのだと三島は言っていた。
菜穂子がすこしずつ希薄になっていっているのは……
(…ハ、こんなん見たら三島が怒りそうな現状だな、こりゃ)
大人4人くらいは余裕で雑魚寝出来そうな、べらぼうに大きいベッドへと三島を横たえる。
「菜穂子」
「は」
「手前ェは……三島のようには、なるな」
いいな、と念押する俺は、菜穂子が三島に憧れていることなんて知っているのに。