第40章 曖昧……III
「ああ、一層の事、僕を刺してくれないかな。
あの時みたいに」
あの時、由紀の異能力が妾の刃を研ぎ澄ませた。
ふと気づいた瞬間、自分は由紀の体を切っていた。
あれが【仮面の告白】なのだ。
人の心をある程度操る精神侵犯型の特A級危険異能力者。
「未来が判るのに、未来を知っているのに
同じことを繰り返して2年先もずっと傍観したままで。
夢の中の僕なら、キミのあの異能力を使えば殺せる。
夢の中でなら、替えは効かない。
だから、ほら」
由紀は地面から一輪の真っ赤な薔薇を摘み取った。
棘が由紀の細い指先を傷つけ、朱線が走る。
渡された薔薇の花を手にした瞬間
花はナイフへと変わる。
「やめ、」
ぐんとナイフを持っていない方の手を引っ張られ、ナイフは由紀に突き立てられる––––
その寸前で、他のものを刺した。
ざくりと夢の中だというのに、こういう生々しい肉の感触は再現されるのか。
「––––……」
由紀はなにも言わない。
まるで本当に、人形が如く喋りも、見もしない。
「ぅ、く……」
「…………真冬」
「いたい……」
平然とした無関心の由紀の瞳は、芝生に滴り落ちた真っ赤な血を見つめていた。
由紀を刺す寸前にかばうように自分の手を代わりに刺した妾は、ナイフを刺した手から抜く。
「……真冬」
血に濡れた真っ赤なナイフは、すぐに赤い薔薇となってくるりと存在を変転させた。
「……単に薔薇をくれたら、良かったのに……」
ナイフじゃなくて、真紅の薔薇の花束だったら