第40章 曖昧……III
「刻が停まっている。
時間経過という概念が存在しない。
それはつまり、どの時代にも『在る』と仮定しても良い事だろう?」
「……つまり、由紀、は」
2年前の由紀は、こうなること全て–––––、
獣の少女との出会い、
織田作の死、
とある暗殺者の死、
中也の悔恨、
太宰の謀叛、
その全てを
もう、その時よりも2年前から知っていたのではなかろうか……?
「なら、何故森殿に」
「先に知っている未来なんて、激甘も良いところだよ。
彼は僕にこう言った。『2年先から視ていた君よ、どうか判っている未来だとしても何も言わないでおくれよ』と。」
嗚呼、そうか、由紀は2年前の彼だが、
その時の妾たちにしてみれば目の前の彼は2年後の、全く変わらない時間の中にいる彼だから。
ということは……
「由紀、もしかして、マフィアに入ることも2年先の自分は判っていた?」
「真冬。
君はポートマフィアの幹部ではなくそれはブラフで、本来は森さんの私邸暗殺者なんだってね?」
昔、まだ王国だの皇帝だのいた時代。
彼ら王族は王宮に住んでいて、王宮勤めという宮廷専用の人員がいたそうだよ。
「昔でいう宮廷暗殺者が君なら、僕は宮廷夢見屋。
つまり、君と同じ、幹部というのはただの隠れ蓑に過ぎない仮初めの人員。
僕も君と同じ、森さん一個人の所有物なのさ」
そんなこと初耳だったと笑う。
しかしそこに、いつもの勝手知った仲間への笑みはない。
敵意と興味と、いろいろ混ざったなにか。
由紀も、森殿の個人的な雇われだったのだ。
妾と同じように。
「こんなイフを視た。
太宰と出会っていないイフの君の夢。
僕らと出会っていない上橋の夢。
……嗚呼、その上橋はそもそも【異能力】というもの自体を保持していなかったな。
つまり、上橋が異能者なのは僕らに要因があると見て良い。
僕か、君か、太宰か、中也か、首領か、それともポートマフィアという組織そのものか。
いずれかによって上橋が【異能力】を持つ、という世界に定められた。」