第40章 曖昧……III
《……という訳で、僕たちもその任務に同行するよ》
「どういう訳でしょう?」
朝になり、隣で珍しく眠っている真冬を横目に
小さな声で乱歩さんの電話に出た。
真冬が目を覚ます前に携帯の振動を押さえたはずだけれど、
さすがに熟睡できない体質だからもう起きちゃうかな。
《人が300人も消えた。
しかも、何の予兆もなく、忽然と。
こんな奇っ怪な事件ほど、興味の掻き立てられる物はない!》
「不謹慎ですよ、乱歩さん」
携帯の向こうから、社長が乱歩さんを呼ぶ声が聞こえて来た。
本来なら、いま隣で目を伏せている真冬も
あの場所にいるんだ。
楽しいのかな?
社長は家だとどんなお人なのかな。
主従ということは、乱歩さんもそれを熟知しているわけで、矢ッ張り彼らの中だけの取り決めとかもあったりして––––––
私の知る真冬は、真冬じゃない。
名前を捨てる前のあの君しか知らないから、今の君を語る彼らが羨ましくて、そして……
「お早う、治」
「……あ、お早う、真冬」
二言断ってから、電話を切った。
「話、聞こえてたのかい?
というか、矢ッ張り起きてたんだよね」
「いきなり眠る環境が変わって眠れるかよ」
くっと笑う真冬。
そうか、昨日私が無理やり腕を引いて来ちゃったから……
「資料を読んだ通り。
昨夜のうちに大体は調べたけれど、矢張り妾も治も途中で寝落ちたな」
「うん。十中八九、そうだと思ったよ」
だって私の手元の資料なんて、途中から象形文字に変わっている。
寝た時間自体はいつもよりだいぶ短いけれど、
こんなにもぐっすり寝たのは久々だった。
「……書き直すか」
「うん。
真冬、手元が狂う前に寝たのは得策だったね。」
「慣れているからね。
乱歩に連れ回されるだなんてしょっちゅうだ」
彼の報告書を書いているのはきっと真冬で、
乱歩さんも真冬を信頼しているから共に連れ歩くのであって、矢ッ張り……
「真冬」
「ふむん?」
君の隣は譲れない。
「何でもない……」