第40章 曖昧……III
「……成る程、300人が一夜で消えたと…」
「坂島とは、その名の通り……
『さかさま』の訛りからきた言葉だね。」
一緒のベッドに横になりながらも、
薄明るみの中に火照る常夜灯が文面を照らす。
太宰と真冬は先ほど深夜に乱歩から来た依頼配信を受け取った。
「……ふむん。
逆さまになるとはすなわち、在った存在が消えるのではなく、無かったものとして処理されると」
「そのようだね。
消えた300人は、取り敢えず形而上この世界からは書き換えられている?」
「と見て良いと思うけど」
真冬が資料に次々と書き込んでいき、太宰が他の紙をそばに置く。
「真冬これ、明日から調べる?」
「否、もう夜のうちに大まかなものは……」
嗚呼、言うと思った。
太宰の予想が当たった。
真冬と仕事をしている時が一番、嗚呼、心が繋がっているなと思える瞬間だった。
言わなくても考えが同じだと言うことが、
置いて行かれた2年の時間に押し潰されずに残っていることが、
嬉しかった。
「了解、こっちは私がやっておくよ。
真冬はそっちの資料を割と読んでいたし、それは真冬が調べたいことなんでしょう?」
口からするりと出てくる言葉は、真冬との時間を埋める物ばかりじゃない。
「……治」
「ん?」
ぺらりと微かな音が漏れて、その細い指先がページを手繰る。
「治は昔から優しいが、もっと雰囲気が優しくなった」
「そうかな……。
よく判らないけれど、そうだとしたらきっと多分、真冬の帰りを待っていたからだよ」