第39章 掠取……II
「嗚呼、そうだよ小さなレディ。
こう聞けば良い。
正直者でも嘘つきでも、どちらでも。
『キミは正直者ですか?と問われたらはいと答えますか?』ってね」
ええ、その通りなの。
正直な人なら『はい』だけれど、
嘘つきは『いいえ』を『はい』に塗り替えるもの。
一周まわって、やっぱり『いいえ』に落ち着くの。
(嘘つきの答えはいいえだけれど、嘘をつくからはいと答えなければいけないが、それをいいえと答えるのが正解)
だから、嘘の嘘。
「嘘の嘘は、逆転するものね」
「ふむ、7分だ」
ユキが手にした金細工の懐中時計は、帽子屋うさぎのものみたい。
「更新出来なかったわ」
「むしろ、答えを諦めないでちゃんと導き出したあたり、誇って良い」
道端の花を摘み取った。
練り切りで出来ている繊細な食感の和菓子の花びらは、しおれることなく勝手に花かんむりとなった。
「すてきな魔法ね、ユキ」
「僕の領地だからね」
嗚呼、私の王子様。
その紺色の瞳は、何人の女の人を映してきたの?
「ダメ。
その想いは偽物だよ。
君を巣食う、悪い害虫だ。」
「…………ユキ?」
嘘つき、嘘つき、嘘つき!
頭に流れ込んでくる声はだれの声?
あなたの声?
それとも、あなたのココロを占拠する人が、もうすでに
いるんじゃないのかしら?
ぐらぐらとベリーの運河が揺らめく。
耳障りな音を立てて飴の小舟が無惨に砕け散った。
「恋をしたの?すてきなマッドハッターさん。」
「そんな事、シリアルキラーに言われてもなぁ」
「悪人は恋をしちゃダメなんて事はないのよ?」
ミルクティー色の髪が翳って、暗く映る。
虹色の雨粒は激しくお菓子の国を打ち壊し、揺り戻しを促してくる。
「……おや、もうこんな時間だ。
ゆっくりお休み。そしておはようエリスお嬢様。」
恋をしたの?の返答は
意図的に避けたみたいな気がしたけれど。