第39章 掠取……II
「彼はなんて答えたの?……は、答えになってしまうわね。
さぞ早くユキの質問に返答したんでしょ?」
エリスは考えながらも言う。
判らない、自分みたいな年頃のこどもに出す質問じゃない。
よく小学生の頃は突飛な考え方をするとか言うらしいけれど、
私はリンタロウの『わたし』だから判らない。
「うーん……そうでもないかな。
3分くらいずっと黙ってたよ。」
3分で答えが出てるんじゃない!
「まず、こどもに出す質問内容じゃないわ。」
「そうだね。
キミは違うけれど、普通ならもう飽きて、思考を放棄していても良いんだ。
それをしないのはどうしてかな?」
ユキの紺色の瞳は、夢の中をぐるりと見回した。
お菓子の国の夢物語は、虹色の雨に降られてきて
お菓子の住人がビスコッティの傘を差し出してきた。
「あら、親切なハンス。ありがとう。」
エリスも飴細工農民も双方、恭しくカーテシーをし返す。
「ユキ、私はね、リンタロウのわたしだから
こうやって喋ったり踊ったり歌ったりできるのよ。
思考は人間の最高の機能だって誰かが囁いていたわ。
だから私は考えつづけるの。
やめてしまったら、きっと縋ってしまうから」
虹色の雨粒がユキの暗い瞳に映り込んだ。
きらきら、全反射して見えなくなる粒子。
「何にも興味なさそうな目をしているわ。
ほんとうは笑うことにも抵抗があるのかしら?
この夢は私の夢だから、ユキがこの夢にこだわる必要はないものね。」
「まさか。」
「うそつき。
嘘の嘘は本当になるのよ?」
そうエリスがしてやったりと可愛らしく笑ったのちに、自分の言葉にハッとした。
「ユキ、判ったわ!答えが!
そうよ、嘘の嘘は本当になるの!」
嗚呼、かわいいグレーテル。
道筋となるその小石を途切れさせないで。