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威 風 堂 々【文豪ストレイドッグス】R18

第5章 そのバーに集まる影





「え。

織田作、今の話ほんとう?」



太宰が、珍しく目を丸くさせ(わざとらしくともいう)
織田作の言葉に食いついた。


言葉とは。

「嗚呼。しばらくの間真綿を借りる。」


先ほど首領から言われたことだ。
やはり太宰は知らなかったらしい。



見るからにしょぼ暮れた太宰が、横に座る真綿に擦り寄る。

真綿が、そんな太宰の黒い蓬髪をなでた。
まるで大型犬の調教だ。



「そんなぁ、また一緒に居られる時間が減るじゃあないか…」

「む、むぅ。とは言われても、森殿の主命とあらば妾が従わないわけにも」

「織田作ずるーい……」



真綿の白い着物の腹に顔を寄せた太宰が、唇を尖らせる。

そんな太宰に口付けてから、真綿が織田作を見た。




「と、言っているが…
ま、その、気にすることはないさね。

貴様が先ほど森殿から受け取った『あれ』があれば」


「嗚呼……これか」



織田作がカーキ色のコートから、銀箔入りの高級和紙を取り出す。
よく見れば越前和紙だった。

その紙には達筆で、何やら綴られている。



「……あれ。それ。」

指示語を連発した太宰が、その紙片を見遣った。



「嗚呼……『銀の託宣』さね」



いわば権限委譲書だ。


この紙片を所持する者の発言は首領の発言にも等しく、
紙片を見せて指示すれば
五大幹部以下の構成員は断ることができない。



ポートマフィア内に於いて、何かと便宜の図られる権限書。




「うーん。つまり、真綿の仮のあるじが織田作ってことになる訳だ」

「端的に言えばそうなるさね」



真綿が酒を煽り、ちょっとだけ拗ねている太宰の頭をなでる。



銀の託宣があれば幹部なんて顎で使えてしまうわけだし

真綿が織田作に仕えるのも義務と言えば義務になってしまうが。




「期間限定のあるじだからな。
せいぜい、使い捨てるが良い。

妾はあるじと共に在り、あるじの銃と盾になろうさ」



例え、どんな結末を迎えたとしても。



真綿がくすくすと自嘲気味に その華奢な肩を揺らした。

その黒い瞳には混沌とした淀みが蟠り、常人のそれとは酷く食い違う。



この3人には判っていた。



この『坂口安吾失踪事件』が、4人のささやかな日常を


一瞬で壊してしまうことを。





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