第39章 掠取……II
「……え?」
エリスが、ロールケーキの馬車を取り落とした。
クリームが潰え、トッピングが飛び散る。
せっせと飴細工の兵隊さんが、
汚したクレープ生地の回廊をおしぼりで拭いてゆく。
「そんなの、あり得ないわ!
……だって、そうしたら
私は私と私になってしまうのよ?」
エリスが眉を寄せてユキを見つめた。
エリスはまだ小学生くらいの見た目をしているけれど、中身はそうとは限らない。
辿々しく言う声は、ほんの少し小さくなっていた。
「そうだね、AもBも間違いなくキミだ。
彼のそばにいるAも、彼の眼中にないBも、外見は何一つ変わらない。」
「中は違うっていうの?」
「『虚実は反転する』……でしょ?
全てのことが逆さまになるというのなら、まず、根本から違うんだよ。」
確か、こんな問題があった。
Aは正直者。嘘は絶対に言わない。
Bは嘘つき。その言葉に嘘しかない。
ただ、AもBも瓜二つ……というより、二人が同じ人間だったとして、どちらがどっちなのかを知りたい。
「質問は一回のみ。
何を聞くかは自由。
何て聞けばいいと思う?」
そう質問し微笑むユキに、エリスが「いじわるね」と言ってから黙った。
飴細工騎士によって綺麗になっていた回廊を歩いて、クッキーの王宮よりも遥か遠くに行くの。
「私にこんな質問するなんておとなげないわ、ユキ。
むずかしくて判らない。」
「これはね、僕が太宰にも聞いたことがある有名な問題なんだよ」