第39章 掠取……II
「でもね
好きなひとが別の人と一緒にいるのは、
なんだかとっても悲しくて羨ましくて、
ぐちゃぐちゃした気持ちになるの。
絵の具の赤と青と黄色と緑とピンクを混ぜたら、きっとそうなるもの。」
エリスの空いた片手が、クッキーのお城の屋根を剥いだ。
板チョコレートの脆いレンガは、粉々に砕けてホットチョコレートの噴水に墜落する。
ざぶん、と甘いお水が跳散った。
飴細工の兵隊さんが、何処からかおしぼりを持ってきてせっせと後片付けをし始める。
そんな兵隊さんを、ひとりつまんで一口でぱくり。
がりと飴細工を噛み砕いて、エリスは甘ったるさに頬を染めた。
「ほら、みた?
よわい人は強い人に食べられちゃうのよ?
いくら頑張ったって、働きアリはライオンには気付かれないの。
同じじゃないかしら?
……私には好きなひとがいるわ。
でもね、彼は別のひとが好きみたい……私なんて眼中にないの。」
嗚呼、なんて憐れなオフィーリア。
指で手繰った相手としか、あなたは幸せにはなれないの?
人魚姫みたいに、自分のことは二の次で
他人のためだけに泡になってしまえるものなの?
「サロメのような焦がれる恋がしたいの、私」
「燃え尽きるのは一瞬かい?」
シルバーのお皿に乗ってたのは、かつて愛した彼の首?
それとも自分で手繰りよせた白馬の王子様の首かしら?
「私は彼が好きよ。
でも彼はちがうの。
もしもすべてのことが逆さまになってしまうような所があったとしたら、彼は私を見てくれるのかしら?」
夢の中のあなたは何て答えるの?
ユキはしばらくガム風船の飛行機を見つめてから、言った。
「いや……見る、見ないの問題じゃないと思うよ。
僕が考えるに
全てが逆さになるのなら、
彼に見てもらえている自分Aと
見てもらえない自分Bが作られるんじゃないかな」