第39章 掠取……II
「初めまして」
目を開けたとき、まず目の前にいた彼の瞳に惹き寄せられた。
厳冬の夜空のような、澄んだ紺碧の瞳。
お月さまに手が届きそう。
その次に、私がどこに立っているのか見回した。
淡いストロベリーマシュマロのテーブルに、
パステルイエローのバームクーヘンのソファ
桜もちの絨毯は、跳ねるたびに鉄琴のような甲高いメロディを奏でた。
「初めまして。アナタのお名前は?私はエリス!」
「では、お初にお目に掛かります、レディエリス?
僕のことはユキって呼んでほしいな」
これが、ユキが魅せてくれた一番最初の夢だった。
クッキーのお城に、マーブルチョコのお花畑。
ふわふわ、あまぁいパステルピンクの夢枕。
「リンタロウに叱られないって良いわね。」
「首領は充分、このお菓子と同じくらいに甘いと思うんだけどね」
「お菓子は、恋と同じ味がするの!」
会話をぶっち切って、エリスが頬を赤らめた。
子供にとやかく言っても理解半分だろうし、
全てが夢で終わるのならどうなろうと現実にはなり得ない。
ということで、適当な方向を向いたユキは
取り敢えずスイーツキャッスルを目指すようだ。
マーブルチョコの花道を歩いて、私のお手手を繋ぎながら、チョコフォンデュの噴水前を通過する。
「クッキーのお城とは、これはまた甘い夢だね」
「ええ!ぜーんぶ夢ですもの!
本当は空を流れるわたあめだって食べてしまいたいし、ロールケーキの馬車なんてとってもステキ。」
クッキー・シャトーのお堀も、ちゃんとケーキのシャルロットみたいにくるりと領地を囲んでいた。
パステルオレンジの飴細工でできたガーディアンたちは、
小ちゃな球体関節をキュウキュウ鳴らしながら、一斉にロンドを踊り始める。
「ほらやっぱり、恋の味がするわ!
ね、ユキも食べてみて」
口の中に放り込まれた飴細工の小さなガーディアンは、人間の舌の温度に耐えきれず、
オレンジ色の球体関節を溶けさせて夢から覚めてゆく。
「ね?きらきらで、ふわふわしていて
甘いのに苦くて、心に絡みつくのにすぐに解ける粉雪みたいでしょ?」
ホットチョコレートの淡い夢霞にも紛れないエリスの笑顔は、やけに鮮明だった。