第38章 消滅……I
「私が言いたいのは、そうじゃなくて……!」
ぽつぽつと虹のしずくが
一面花の絨毯に吸い取られて、花がその色に色付いてゆく。
まるで人の心を抽象的に表しているみたいだ、と興味なさげに花を見遣る三島君は
本当に花が好きなのか?と疑うほどに冷ややか。
「こうして、何かの一粒だけでも真っ白なものは染まるんだ。
人間の心は多彩だね。
もっと取り留めもなくて漠然としているんじゃないのかな?」
三島君からの問い。
私は今の自分になぞらえる事は出来ずとも、この3年間の事をふと思い出した。
「嗚呼。しているさ。
……学生が如く恋に悩んだり、
嫉妬で空腹も感じなかったり、
心配で夜も眠れないような人間はとても良いと思う。」
最後に涙を流したのはいつだろうか。
織田作と真冬が死亡したと判った時かな?
最後に看取った織田作の顔は穏やかだった。
だから私も、泣き顔だけは見せてはいけないと思って、最後の最後は上空を見ていた。
「とは言え、大人になると感情はそこまで揺らがないと聞くけれど」
私の言葉に三島君が笑って言う。
「うぅん。情緒不安定な青年期の学生とかよりかはね?」
第二次性徴を迎える頃と、小学生くらいの頃の感情の振れ幅は大きく異なる。
複雑性を増した事により人間はより高度な疎通が可能となったが、そのぶん会話での論争が増えた。
言葉のナイフは目に見えないのだ。
「三島君でも取り乱す事、あるのかい?」
「実際、取り乱したから僕の中からあんなにも乱暴に、異物を吐き出させたんじゃないか。」
遠く遠く切り離され、打ち捨てられたあの何かの片鱗は
この夢の中の雨粒となって割れてしまったのだろう。
「さっき捨てたその『なにか』を、君じゃない他の誰かがサルベージしちゃったら一体どうなるんだい?」
「その人に移植されるよ。
勿論、僕の廃棄物だから危険っていうバナーが表示されるけれどね」
誰かへの恋心を別の誰かに無理やり捻じ曲げられいびつになった恋慕に名をつけるとしたら何になる?
さっき捨てたのは、そんな何かだ。
「掠奪愛、とか」