第38章 消滅……I
その味を知っていた。
きらきらで、ふわふわしていて
あの女の子の言う『甘いのに苦くて、心に絡みつくのにすぐに解ける粉雪みたい』を持っていた(ような気がする)味を。
––––私は、三島幹部を愛していますから。
はっきりと僕の目を見て伝えてくれたあの言葉を、別の誰かにあげようなんて思わない。
だからこそ、
「……何でだろう…」
「上橋の真っ直ぐなところは、三島君苦手だったんじゃなかったっけ。」
「そのはずだよ」
僕の目を見ることが出来る上橋が、よく判らなかった。
日頃あれだけ判ったように話しているというのに。
あれが人間なのだと当てはめていた。
「太宰、君は昔の上橋が大嫌いだったね」
「今も好きじゃない。
昔のあの子よりはマシだけれど、今だってまだ、生易しさが中途半端なんだ。」
「それを割り切るのは、上橋には酷だと思うんだけどなぁ」
三島が笑う。
「大切なんだよね」
「そうだね。大切なんだと思う」
「好きなの?」
「判らない」
早々に解答を放棄した三島は、きっと彼の中では納得なんてしていない。
思考は人間の最高の機能だという。
それが出来てこその人間なのだと、彼は知っている。
それを放り投げることの一大さを、彼は知っている。
「いないと不便なんだよね」
「それを、中也と賭けているところなんだよ」
「は?」
中也、その言葉を聞いて
夢の中の太宰はまるで本物の太宰治をなぞるように嫌な顔をした。