第38章 消滅……I
「けほっ、けほ、」
僕の中から強引に、先ほど取り込んだ"異物"を吐き出させた。
溢れ落ちた感情は、行き場所もなく打ち捨てられて
花びらへと早変わりし夢の中にふわふわ、漂う。
あんな物、認めない。
「貴重な女の子の感情を弄んで、それを捨てちゃうのか。
可哀想だなぁ」
「……太宰」
やあ今晩は、と夢の中の彼は手を振りながら近寄ってきて
咳き込む僕の背中をさすった。
「可哀想に、由紀君」
「は、僕が可哀想なんだ?」
君の呼び名を変えたことについては突っ込まないのかいと僕の夢の中の太宰は笑う。
彼は太宰であって彼ではない。
揺り戻しの来た夢は先ほど壊れたのに、
こうして延長があるということは、これは非常にエラーを起こしたウイルスの一粒。
「食べる?私の夢」
「有難いお誘いだけれど遠慮するよ。
君からは何だか危ない甘さが漂って来るんだ。
とてもね」
太宰の手を借りて立ち上がり、すと空を見る。
偽物の青空に虹色の雨粒。
ふわふわ、ただ波間に浮かび漂うだけの花びらの霧。
「…………」
「あれ、私がむしろ閉じ込められてるよね?
普通の【仮面の告白】の中ではなさそうだ」
道理で。
花盛りの森は、永遠に時計針を縫い止めたまま動きもしない。
僕は背後の太宰を一瞥してから、楽園内を歩き出した。
「太宰?僕のそばにいないと夢の崩壊に巻き込まれて、君、一生起きられなくなるよ」
「えっ、ちょっと待って」