第38章 消滅……I
––––え……!?
「…………!」
何で。
言い方は悪いけれど、万人の夢の中に僕がいるとき
対象の人が、こうして僕の一部を繋ぎ止めるなどという暴挙に出ることは制限が掛けられているはず。
制限とは、対象が僕に恋心という気持ちを向けていない時––––––
(待っ、て、は)
僕の台詞だ。
眩暈がした。
強い花の香りも、見慣れた蒼穹も、全てが要因であり、関係ない。
どういうこと。
この少女が僕に恋心を向けている?
悪い冗談だ。
「だって君は、今の今まで…あんなにも楽しそうに」
楽しそうに、悲しそうに
君が誇れる、君だけの恋を話してくれていたじゃないか。
彼女は悪くない。
彼女の恋心は大人たちのいう『普通』ではないから、そこにできた隙間に
僕が僕の夢を使って漬け込んだんだ。
異能力を持つ者としての本能で。
僕が彼女の恋を踏み躙って手に入れたものは
「由紀さん……」
酸っぱくて苦くて、とても食めたものじゃない。
ぎりと僕は歯噛みした。
こんな汚い方法で得たものなんて、
「要らない、こんな感情なんて……!」
ばらばらと激しく降りつける虹色の夢の欠片。
断片的になった彼女の恋のパノラマが雫となって
この夢の崩壊を促進させる。
早く覚めなきゃ。
切らなくてはいけない。
このままセーブして夢を終わらせたら、少女が起きた時何が残る?
飽き飽きしていた日常を変えてくれた一つの恋までもを
僕が塗り潰してしまったら。
強引な揺り戻しが、少女から意識を隔絶させてゆく。
この日僕は久しぶりに
豹変してしまった人間の感情を食べずに夢を強制終了させた。