第38章 消滅……I
「で、何を賭けるつもり?」
「何も賭けねェよ。
ただ、合ってた方が一つ相手の言う事を聞かせるっつーのは?」
中也の言葉に三島が黙り、そして目を細めて笑う。
「中也、もしかして上橋とのやり取り聞いてた?」
「はあ?なんの話だよ?」
自分が言った言葉がこうも早く返って来るなんて想像外だった。
ただ中也なら、変な事は言わないはず。多分……
「リスク高……。––––ま、男同士で断る理由もないけれどね」
「判んねェよ?俺と付き合え〜かもしれねェし」
茶化してそう言った中也の目には勿論本気も本意もない。
三島の異能力を長年吸い込み続けた耐性は伊達ではない。
こうやって軽口を言い合える仲が、心地良いと思えた。
心地良いと感じるものは好意が宿るらしいが、自分はその違いが判らない。
「まさか。中也、君の好きな人なんて3年も前から変わってないだろう?」
三島にとって、恋愛感情ほど美味しく食べられるものはない。
眠っていれば悪夢を食べるが、こうして起きている時に【仮面の告白】に覆われるとまずい。
自分を忘れてしまうのなら、夢のような現実を、夢の跡地を示してあげたい。
後腐れなく忘れ去られるのであれば、少しくらいと
この男に気持ち以上のものを望んだ女は何万人いたのだろう。
「……ごめん、駄目な方の質問だったね」
三島の目だって矢ッ張り、
何年も前に、俺より先に
この世にただ一人だけのあいつを望んでいるくせに。