第38章 消滅……I
「なァ、三島。賭けねェか?」
「藪から棒に……何だい?」
時刻は間もなく朝の4時を迎える頃。
ようやくポートマフィア内も寝静まる者たちが増えるという時間帯。
菜穂子が就寝し、三島の報告書が自分に来なくなったので、中也が直で来た次第だ。
「…………」
「なンで笑ってンだよ?」
「いや、僕と同じこと言ってるなって思ってさ」
金属で出来た猫足のガーデンチェアに座り、夜半の中にある青空を眺める。
異常で異様な光景だ。
ずっとこんな所にいたのなら、神経が可笑しくなりそうだった。
「三島は、菜穂子を今回は此処に留めさせるンだろ?」
「そうだよ」
その言葉に中也がフッと笑う。
菜穂子ならこうするだろう、という三島との意見の食い違いを楽しんでいる顔だ。
三島と太宰はどこか似通っているけれど、双方の世界一つ分乖離していて、似ているようで、全く違う。
かもしれない。
憂いを帯びた太宰の目と、停滞を望む三島の目はまったく違うのだから。
「だから俺は、菜穂子が当日じゃなくても結局は追って来るに一票」
「……口に出すと真実になるっていう事を知っているかい?中也」
三島の目は興味無さそうに花を眺めている。
そろそろ感情のリソースが切れてきたのかもしれない。
嗚呼、菜穂子を置いて行くのは、女を連れ込みやすくする為か?
何故?
だって三島というこいつは、今まで菜穂子に何かを感じて自分の行動を曲げるような事––––––
「ラベリング理論か?」
「ピグマリオン効果とも言うけど、両方とも矢っ張り思い込みを相手に押し付けて、変化を感じたいだけのことだ」
「相手の思想に同意せず、自分の理想を同意する、か」
「何かに縋っていないと生きていられないんだろ。
……僕は、判りたくもない。」
三島がたった一人の人間に感化されて、自然と罪悪を感じるようになったとは言わない。
ただそれでも、三島の中で上橋菜穂子は紛いなりにも
特別な存在になってるッてことなんじゃないか?