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威 風 堂 々【文豪ストレイドッグス】R18

第38章 消滅……I






菜穂子の言葉に、三島の紺碧の瞳は挑戦的に細められた。
此方こそ珍しい、と菜穂子の頭に過ぎる。



「上橋」

「はい」

「賭けをしようか」


三島幹部の賭け事発言ほどイカサマ指向は無く、こちらが負けるも同然である。

ただ、それを無下に断るほどの身分と度胸を菜穂子は今この場で、持ち合わせてなんていなかった。



というか––––

三島幹部のテリトリーであるこの異能力の中に閉じ込められている時点で、自分に自由など効かないのだから。



「賭け、ですか」


「勿論、金銭は賭けない。これは譲歩だ。
上橋が勝てば、僕はひとつだけ君の望みを聞いてあげよう。

叶えられるかどうかは、そこはそれ、別の話になるけれど。」


ちらりと表を見せたジョーカーみたいだ、と思った。


手に届くのに己の手には入らない。
恋も賭けも同じだと思う。

そこに足りないのは、実行していないという自分の失意。




「もし、私が外したら……」

「特に何も起こらないよ。
持ち掛けた僕に報酬なんて必要ないからね。」

淡々と答えた三島幹部が、この賭けに乗ることのメリットはない。

私が合っていればひとつだけ望みが聞き届けられ、間違っていても何もない。

なんで、こんな事を……幹部は、




「賭けの内容は……」

「単純だよ。はい、これ」

夢の中であれど、番人の三島幹部が支配下に置くこの異能空間に不可能はない。

私に渡されたのは、よく重要書類の入っていそうな茶封筒だった。




「……中身…を当てても意味はないですよね。
三島幹部が知らないはずありませんし……」

ということは、これを誰に渡すのか、とかでしょうか。



「そう。
それを、君の思うアンカーに渡してほしい」

「…………?」

「誰に渡しても良い。
ただ、その人に渡したとして最終的に誰に渡るのかを予想しながら渡すんだ」

誰でも良い、ただし、最後に貰う人はすでに決まっていて、ゆくゆくはその人に渡れば良い。



当てるのは––––最後の最後にこれを読む人ではなく、誰に渡せば良いのか、ということ。

誰に渡しても良いとは言ったが、割と絞られる。




「……難しいです」

「やってもいないのに折れるのは感心しないなぁ」


三島幹部が笑ってそう言った。






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