第38章 消滅……I
「その答えは、君が今ここで、一人で出した答えかな?」
「そうですが……」
どうやら相当、三島幹部のお気に召す解答だったらしい。
あらかじめこんな質問が振られると判っていたのか、
それとも今ここで考えたことなのかを問うたほどに。
こんな質問が予知出来る人なんて、自分はこの三島幹部か今はいない太宰幹部くらいしか知らない。想像がつかない。
「いいね。とても良い。君のその答えは理想的だ。」
嗚呼、そんな嬉しそうな顔(見掛け上は)するくらいなら、自分ではなく上橋菜穂子に向けてやってほしいと思った。
「……うん、成る程。君はそう思うわけだ」
「え?はい。善人は犠牲を嫌うと思うんスけど……
正義ッつーのはその人の定義でどうにでもなるモンです。
犠牲がついて来ようが来まいがその人は気にしない。」
立原道造という青年はこういう人だと三島が微笑んだ。
説却、話の骨を折るようだけれど
ポートマフィアは生まれ持っての、生粋の『悪』だ。
ならばヴィランは正義に滅ぼされるべきなのか、善に滅ぼされるべきなのか。
「嗚呼。そうだね。
犠牲の上に成り立った幸福で、犠牲となった人の悔恨を塗り潰してはいけないよ」
正義とは何か、正義の数だけある答えだ。
愛とは何か、こちらも愛の数だけある答えだ。
「ともあれ、君の答えは僕の中で満点だよ。」
「有難きお言葉ですね。
満点がいったい何点なのかは聞きませんけど、三島幹部が俺に聞くような質問じゃなかったような気がします」
立原は花畑を見渡した。
小鳥が飛んでいたらもっと良いのだろう。
それこそ理想的なのかもしれない。
夜の来ない蒼穹は、映し出された雲の隙間を縫う。
「つまり?」
「何つーか……こう言った質問は、普段上橋にしていたような…と申しますか」
立原は頭脳戦これ特化な三島と違って肉体労働をする構成員だ。
考えを口にするのではなく、誰かの考えを実行するのが役目だと自負している。
だからこそ。
「嗚呼……そっか、立原君は上橋を昔からよく見ていてくれていたからね」
「イヤ、そんなんじゃないッすけど……!
妹分は昔からたった一人にご執心のようですし」