第5章 そのバーに集まる影
太宰はこのことを知っているのか。
先ほどの彼女…真綿が、『人探し』だと首領に助言していたなら
少なくとも、マフィアではないあの彼女には知られている。
そこには別に、重要視することはない。
首領が常に傍に置く暗殺者なら、森がその彼女に何を相談しようと、それは彼女の仕事内だ。
ただ––––もし、太宰が、安吾がいなくなったことを知らないのなら。
「…首領」
「嗚呼、心配は要らないよ」
織田の言葉を先読みしたかのように、森が怪しげに微笑んだ。
「真綿君だろう?
彼女なら大丈夫。
真綿君は、世界でただ一人、私の言うことしか聞かない暗殺者だ。
機密を漏らしでもしたら、『世界屈指』の名が泣く。」
舐めるなと言いたげな表情だった。
私は安心し、首領から『あるもの』を受け取った。
「……嗚呼、そうだ。 織田君」
「はい」
直立不動を維持したまま、私は返事をする。
「……しばらくの間、真綿君を貸してあげよう。
好きに使いなさい。
彼女には私から話を通してあるから、齟齬はないはずだ。」
「……は。」
……なんだか太宰に恨まれそうな気がした。