第5章 そのバーに集まる影
織田はとある自殺愛好家の幹部の友人であり
その男が、真綿という女性がどうしようもなく好きなことも知っていた。
毎回毎回、その男と会えば
『真綿のウエディングが可愛かった』だの『言葉遣いがいちいち可愛い』だの終始聞かされていたから。
この前だってそうだ。
バーに行けばすでにいて、小さな酒のグラスを煽り、安吾に怪我を問われるといった始末……
「機会があれば、真綿君から暗殺技術を学ぶと良い。
…って言っておいての、君に仕事だ。」
執務机の上にある、金属製の葉巻入れから
葉巻を一本取り出した森が、吸うでもなく弄び、織田に言ってきた。
「行方不明になってしまった、ポートマフィア情報員の坂口安吾君の捜索を頼みたい。」
坂口安吾––––
今、その仕事を頼まれた彼…
織田作之助と、さっき挙げた友人である太宰治と
坂口安吾は飲み仲間であり、
強い絆のある友人同士であった。
ぴくりと織田の指が揺れた。
小さくて、穏やかで。
それでも居心地の良い、日常。
……そんな日常が壊れてゆく音がした。