第37章 天の花嫁
「そンで––––……」
結局集まったのはA除く五大幹部3人、紅葉姐さんの執務室は畳の香りがする。
「任務の詳細は?」
「これだね。」
中也が問う前から、三島は万年筆を動かしていた。
渡された冊子のほとんどには調べ済みの付箋が貼り付けられている。
いつの間に、と考えることすらばかばかしい。
「……住民が消えたのか」
「そう」
短く肯定した三島は面白そうに微笑を浮かべる。
ぱらりと姐さんがめくった資料にはクリップで何やら逸話の詳細が添えられている。
内容は……
「一夜にして、愛知、横須賀にある坂島(さかしま)町から300人が消え去った。」
「なる程、話的にはハーメルンの笛吹き男……か」
「ご名答だよ。
別段、小児攫いじゃないけれどね」
何を問題視していて、首領は俺らにこれを頼もうとしたのか。
そしてなぜ、三島はこの事件から菜穂子を遠ざけたのか。
「横須賀ッつったか。
俺的にはこっちの横須賀が印象的だけど?違うンだな」
「尾張横須賀だね、これは。
向かうのは神奈川じゃなくて愛知の横須賀だよ」
しかし、これでますます判らない。
ポートマフィアが拠点を置いているのはヨコハマだ。
なら、神奈川県の横須賀なら行っても不思議はないが、わざわざ何故愛知まで出向く必要がある?
しかも、三島がまた外に出る事態になるまでに早すぎないか?
「…………」
「由紀?」
何やら思案している三島を見て、姐さんが小首を傾ぐ。
「中也が考えていること、判るよ。
僕が出なくてはいけないと判断されるまでが早過ぎる。これ自体が罠かもしれない。
今考えても、その可能性は高い。」
嗚呼……
だからか。
俺は今になって、三島の考えに至った。
「だから菜穂子を置いたのか」
「そう」
頭の良い奴は昔の偉人と同じ考えに至るとよく聞く。
徳川の親藩、譜代、外様。
信頼ではなく信用に値する者を、と。
自分がいない所に穴埋め出来るように、菜穂子を–––––……