第37章 天の花嫁
「は––––––」
「え?」
俺から出た声は驚嘆、それも声にならないものだけ。
姐さんは聞き返す、それでもやはりあり得ないという声だ。
目の前にいるこいつは、いつも以上に何を考えているのかが判らない。
紺色の瞳は赤い白熱灯の下でも輝きなんて無かッた。
恐ろしいものに見えてくる。
どうして菜穂子を連れて行かない?とかそんなことじゃなくって……
「……三島、それ、あいつが納得すると思ってンのか?」
菜穂子はこいつに言った。
愛していると。
自分がいつも上司部下として一緒にいたから、という理由も勿論あるンだろうけど、大部分は三島への恩恵を感じての恋心。
マフィアの黒で淀んではならない、純粋な。
「まったく。思っている訳ないでしょ。
でも、上橋は連れて行かないのは幹部の、僕の意見だ。
一度二度目の反発は許すけど、三度目はないことくらい上橋も判っているだろうし」
それはさすがにないんじゃないかとか簡単には言えなかった。
三島には、人間の心が判らない。
持ち得ないことが理解できるわけない。
それが今、一番痛感できた。
「……納得いきませんって、菜穂子なら来ると思うけどのぅ……」
「来るでしょう。納得させるしかない。」
三島はそんなこと、微塵たりとも思ッてない。
一度二度の反発も、三度目に菜穂子が言いそうなことも、すべてがこいつの予想内に収まっているうちは策略通りに動くしかない。
なら、第三者の俺らに出来ることはと言えば、三島を止めるのではなくて菜穂子の傷を減らすことだ。
「なら……三島、新しい任務入る前に
此度の報告書を俺の部屋に持って来させろ、菜穂子に。
俺から言えばきっと納得はしなくても傷が深くならないだろ」
「……そう。中也は優しいね。すごく。
僕にはそれが脳で判るけど、感覚では矢っ張り判り得ない。」
こういう時
第三者が言うのではなくて、ちゃんと三島の口から言わなきゃいけなかったのだと
三島はきっと、判っていたンだろう。