第37章 天の花嫁
「ちょっとごめん、二人とも。
もしもし?」
席を外した三島が、少しだけ俺らから離れた。
三島の紺色は、延々と青空しか映さないこの花畑の夜成分を抜き取ったくらいに暗い。
「え?中也?こちらにいるけれど」
俺が何だ?
三島に来たっつうことは、この後俺の方にも連絡が来る可能性が高い。
それを二度手間にならないように、
俺や三島、紅葉姐さんが一緒にいるときは幹部会議じみたものをしているのが通例となっている。
「何かな?……うん、新しい任務……?」
は……
新しい任務っつったって……まだ先の報告書がどれだけ残ッてると思ってんだ?
首領からの命令なら俺たちにも特に異存はないが、こりゃァ今夜中に片しておかねェとか……
「……判った。それを、中也たちにも言っておこう。」
通話を切った三島が、ごめんねと苦笑いしながら席に着く。
三島の紺色の瞳にはちゃんと決めたという決意の色。
何の、だなんて今更の付き合いで問い詰めるのは不必要だ。
人の感情を汲めないメリットは、ここだろう。
曖昧に誤魔化すのはただ単に三島が、そのとき人間ならどうするかとなぞっているだけの言わば模倣で、どちらかと迫られたら合理的に選べるというもの。
無情かつ非道で、非情なことにも手を伸ばすのが三島由紀夫という人間になり損ねた生物。
「ンじゃ、明日の朝でいいか?集まるのは」
「そうさな、首領からの公式招集がかかるまでは、こちらで各自合わせておいた方がよかろ」
時計は夜中2時を指すところだった。
はあ……この後、報告書片すか……
デスクワークは嫌いだが、仕方ねえだろ
「それなのだけど」
俺と紅葉姐さんが腰を浮かしかけたとき、三島が言う。
それを聞いて俺も姐さんも、目を見開かざるを得なかった。
「……今回のこれには、上橋は連れて行かない」