第37章 天の花嫁
「然らば、こう言うのはどうじゃ。
反対語を組み合わせるだけだが、愛憎という言葉があるのだからなぁ。
愛とは大切に思う事、それの反対は失いたくないという気持ちじゃ」
紅葉姐さんは別の視点に切り替えた。
異性の中で、憎い人も大切な人も総じて"いない"とか
そういう類で一緒くたになるのなら。
「……失いたくない、異性……?」
「うむ。
そうじゃな、由紀にとってそばにいないと不便な異性とは?」
不便とか言うなよ……
俺の苦笑は聞こえなかったらしいけど。
「成る程。それが、僕にとって上橋菜穂子なのではないか、と考えているのか」
妙に納得したかのような様子だけど、三島の目は依然として何もない虚無だ。
それがどうにも気にかかる。
三島は判っている、"それ"が部下である菜穂子を傷付けること。
「なーんか言わせた感半端ねェのは俺だけか?姐さんよォ……」
「まあまあ、進歩じゃな!」
そうなのか?と食い下がりたい気の方が大きいが。
判っている。
三島には判らない。
永遠に判り得ない。
判らせようと奮闘しても無駄だってことくらい。
人形に感情という概念がある訳ないことくらい。
じゃあどうすればいいかなんて……
「……あ」
「あ?」
三島が唐突に、持っていた電子端末に目を遣る。
小刻みに震える端末は、着信のそれよりも長い。
電話か。
それは、組織内の部署からの内線だった。