第37章 天の花嫁
先客がいるだなんて、
そしてそれが誰かなんて判りきったことで。
「こんばんは、姐さん」
「おお……中也か。
其方も由紀にお茶をたかりにきたのかえ?」
ンなわけあるか!
三島の病室にいたのは俺らと同じ五大幹部の1人、尾崎紅葉で
俺の育ての親と言っても過言ではない、実の姉のような人。
紅葉姐さんの着物はすっかり秋の色に染まり、病室にある猫足テーブルに置かれた春の花がとても異質めいたものに見える。
三島が季節を間違うはずもなく、大方、花を摘んだのは姐さんだろう。たぶん。
とは言えこの花畑に季節なんてないけどな……
「違う、俺はこいつと話が」
「冗談じゃ。ささ、隣空いとるえ?」
紅葉姐さんは息子をからかう笑みを浮かべている。
俺は大人しく姐さんの隣に座した。
「……それで?なに、話って?」
三島が俺の前にハーブティーを置き、それから菓子……ではなく
この深夜に食べても平気そうな軽食を添える。
「おー、さんきゅ……じゃなくて、三島は菜穂子の告白になんて返したンだ?」
「え?そっか、って。それだけだけど」
隣の紅葉姐さんが、なんぞ面白そうな話かと食い気味に俺を揺すってくる。
っつか……それよりも……
「菜穂子が不憫すぎて憐れむわ」
「憐憫は人を傷付ける事もあるんだ、中也。
僕が人に感情を抱けないことを知っていて、それでも上橋は言ったんだ。」
それだけだろ、と三島は言った。
その紺碧の目がなにを見ていてなにを考えているのか判らない。
もしかしたら何も考えていないのかもしれないけど。
「取り敢えずさぁ……
三島は、愛するとか恋をするとか、人間の行動をなぞるだけならしてきたンだろ?」
「うん?」
このままでは菜穂子は一生報われない。
報いなんてあいつは期待していないだろうし、当然のように俺らが助けてやるのも筋違いだ。
三島が部下の二度の失敗までなら寛容に許すのは、甘えではなくましてや期待とかでもなく
相手の限界を限りなくギリギリまで見限っているからだ。