第37章 天の花嫁
「……え? 嗚呼……はい、私の気持ちを」
三島幹部にとって中原幹部は旧友であるから
こうして私の知らない所で私の話がされている事は容易に想像出来た。
「……あいつに、恋だとか、情愛だとか判らないッて判っててもか?」
「はい。勿論です。」
にべもなく私は頷いた。
知っていて好きになったのなら、どうしたってそれを抜きにする事は出来ないのだから。
「そうか……
まあ女に優しいのがあいつだが、菜穂子はその範疇にいながら三島にとってなンか別なような気もするからな……
頑張れよなんてマフィアがいう言葉じゃねェか」
いえ、と私は首を振った。
何の励ましなのか、それとも同情なのか、兎に角
中原幹部が三島幹部の事を考えているのは判った。
私が三島幹部にオークションで助けられる前から、この御二方はとっくに知り合っていて
愛していると言っておきながら私の知らない三島幹部を知っているのも中原幹部だった。
そして、私が三島幹部について昔から疑問だったこと。
「あの、中原幹部」
「何だ?」
面白そうに私を見る幹部の碧眼は、細められていた。
「……私、三島幹部が怒っていたり、とか
そういうのは見たことがないのですが……」
私の言葉に、中原幹部は何を今更と
肩を竦めてみせる。
「……そりゃそうだろうよ。
愛だの恋だの、感情を知らねえ奴にそもそも怒りの感情なんて存在するか?」
考えた事がなかった。
そう言ったら嘘になる。
矢張りそうなのかと思った時、
なぜか私の胸の奥が、グッと嫌な音を立てたと思う。