第37章 天の花嫁
夜遅くのヨコハマ、ポートマフィア本部ビルが立ち並ぶ侵入禁止区域の中。
マフィアのビルがヨコハマの夜景を飾り立てている。
ほとんどの構成員は夜勤だからまだ点いている電気は多いはず。
そんなヨコハマを一望できる、ビルの上階は
五大幹部以上にしか使用許可の出ない執務室で、一介の構成員ではまずもって幹部様の執務室すら行けないのだと私は知っていた。
バロック調の木製の両扉を三度ノックし、私は言う。
「失礼して宜しいでしょうか、中原幹部」
「菜穂子? いいぜ」
中原幹部の執務室のドア、その左右に立った拳銃を携行した黒服の構成員に会釈をしてから入る。
「失礼致します。三島幹部から、こちらの書類を……」
「あー、そこ置いとけ。悪いな」
いえ、と返してから改めて中原幹部の机上を見遣った。
……積まれた書類の束が、幾つもある。
そういえば三島幹部も、あの花畑にないだけであってどこかに置いてあるのでしょうが
最近はとてもお忙しそうにしていた……
とはいえ三島幹部の側近、部下に過ぎない私では
重要書類を見せていただく事すら許されていないので、こうして運ぶくらいしかお手伝い出来ないのですが……
「あの……この書類は……?」
「ン?あー、隣町が結果的に燃えちまっただろ。
それの始末書だな、どれも。
サツを攫った件は三島が何とかうまいこと片付けてくれたみてぇだが、こういうのは国が放ってくれねェんだよ。」
印の押された書類を中原幹部から受け取り、さっと目を通して三島幹部宛なのを確認した。
「では、私はこれで。お休みなさいませ」
「あー、待て菜穂子」
「は」
腰を折って中原幹部を後にしようとした時、呼び止められて私は顔をあげる。
上げた中原幹部の顔は、何やら複雑そうに眉を顰められていて。
言うなれば、余計なこととは判っているが念を押しておこうという風な……
「あのさ……三島に、何か言ッたんだって?」