第36章 此処からまた
「な……かま……?」
「そうだよ。仲間、だ」
治が無意識に喉から零れた声のように低く呟いた。
その表情は……驚愕、歓喜、拒否と絶望……?
「……ど、して、」
その手が伸びる。
頬を通過して、耳下をくすぐり、妾の首にまた伸びて来る。
今度こそ妾は簡単に押し倒された。
視界が目を瞑った事により閉ざされる。
体がゆっくりと傾いで、どたんと音が鳴った。
「なんで、なんで君の中の私は、その私しかいない訳……?」
地の震えるかのような声だった。
ぎゅっと首が締め付けられて、妾は目を開ける。
喉が詰まる。中身が伴っていないような声しか出ない。
それでも、今の治には言うしかなかった。
「……贖いだな」
「そんな言葉で片付けないでよ!」
首に掛かる手から力が抜けて、先ほどよりも弱くなった治のその手を解いた。
ぎり、と治が歯噛みしている音がする。
それは、満面の憎しみをぶつけられるという符丁だ。
「3年間も、治の時間をすべて奪った罰だ」
「そんな事、つゆほども思ってないでしょ…?」
怒りを吐露するかのような声には、まだ理性があった。
自分のせいではないという事を、八つ当たりだという事を判っている。
「……マフィアが憎いか」
「憎くない。
悔しいし、認めたくないし、織田作と真冬がこうなった結果と思えば確かに憎悪と呼べるモノかもしれない。」
治が妾を腕に閉じ込めたまま、そう呟いた。
呟いた治の瞳は、この日の当たる世界ではしてはいけない色をしていた。
この3年間のうちに治に溜まったものが漱がれる日が来るのなら、それは何年後なのだろう。
「それでも、今も昔も、私はあの時あの方法でしか先に進めないと見切りをつけていた。」