第36章 此処からまた
––––『私と乱歩と共に……異能力者を、救わないか』
そう3年前に天の啓示のように言われてから、妾は福沢殿の思い描く思想について来た。
否……ついて来たのは、自分の意志。
『異能力者を、救う』。
荒唐無稽で、叶えるには値しない程の
長く、永く 続くであろう辛苦の道。
確かにそんなもの、ひとつの異能者団体が為す事ではない。
ただ、それでも、いつか誰かが為す事なのかもしれないのなら……妾はそれを自分たちの手でやったと証明し、その結果を、その光景を自分の目で見たい。
「妾は、そう思ったのさ。
いつか誰かが成し得ることなら、自分たちに出来るのではないかと
いつも前に進むあるじ殿に、ついて行きたいと思えた……
だから此度のこれは完全に妾の意志だ。」
「そ……っか……」
治が一瞬だけ泣き出しそうに目を伏せて、自分の瞳を覗き込んで来た。
その鳶色の瞳に映る妾は、妾ではない。
妾を介して他の誰かを見ている目。
それはきっと、昔の自分。
「3年前の真冬が、そんな事聞いたら……あり得ないって鼻で笑いそうだね……」
「嗚呼。妾らしくないと言うだろうさ」
嗚呼きっと、そう言うだろう。
森殿の側が心地良かったのは、典型的な『悪』に自分の感覚が麻痺していたから。
暗殺者としての悪である自分には、とても良い空気だったから。
麻痺していた……そう表現出来る自分は、光の当たるこの世界に出て来て随分毒されたものだ。
死で物事を解決する考え方はまだ根強く蔓延っているというのに。
なんと、傲慢なのだ。
それが自分、それが真冬なのだと判っていた。
「いいね……そうやって、寄る辺の思想を持てるのはとても良い」
そう言った治はまだ目を伏せていた。
まつ毛の影が、夜の闇に紛れ込む。
それは妾だけではないだろう、そう言った。
「治もだ」
「え?」
「仲間、なのだろう。
こうして同じ組織に与している治は、とうに仲間ではないのかや?」
今の治は、お気に入りのおもちゃをいきなり横から取られた子どものような顔をしている。
自覚がないのなら、それは精神の現れなのだと
昔、花畑の彼奴が言っていたのを思い出した。