第36章 此処からまた
いきなり何かと思った。
治が言いづらそうにしていたから、せめて妾から提供すれば良いかと思っていたけれど……
見当違いだったのだろうか?
「どういう関係って……言われても、の」
髪から水分を拭い取り、治のものであるシャツを羽織った。
羽織ったシャツからは勿論だけど治の匂いがする。
なぜこの彼はそのようなことを、聞き辛そうにしているのだろうか。
彼は妾に好きだ愛していると数年前は毎日のように言っていた。
それが3年前のあの事件で日常からそれは丸ごと欠け落ちて、思えば治の気持ちを……何度、自分は––––
「そう、さな……
夫と妻……には足りないが、だからと言って恋人などという物で片付けるのは気に障る。
有り体に言えば、妾にとっての旦那様はあるじ殿になるからなぁ……」
成る程、恋人という浅はかな呼称の仕方をしたら黙っていないという訳か。
「そっか……」
「……なんだ?」
「新しい主人とは、もう何年目だい?」
「ふむん……もう3年か」
3年、その言葉を聞いた治が何故か肩を落として息を吐く。
そしてあれは……安堵の笑み。
今の会話で安堵するような所があったのか?
「……ね、真冬。この会えない2年間も含めて、私と君は何年目かな」
「ふむん……何年なのさね」
目を細めた治が、それを言いたげにしている事が判ったから、妾は笑って流した。
「もう、5年が経つ」
「もう、そんなにか」
あの夢の番人とは治よりも少し長い付き合いだけれど、治と中也もそうは変わらない。
「時の流れに押し潰されちゃう物なのかな……付き合いって」
「そうかもしれないな」
言った自分の声は、いつも通りの物だと自負していた。
そうでないと。
「……ね、真冬……
私のそばには……もう、居てくれないのかい?
付き合いの長さが関係ないのなら、私は奪うことに躊躇いはない。
真冬が傷つくようなものは否定的になるかもしれないけれど……」