第36章 此処からまた
「……と、言うと?」
真冬が、その体よりも大きいのではないかと見紛うくらいにバスタオルを広げて私の頭に被せてきた。
そんなことをしている間にも真冬の濡れそぼった髪からはひとしずく落ちる。
「私の事はいーから……真冬も早く拭きなよ」
私の箪笥から見繕った真冬の服は、身長差もあるからふた回りほど大きい気がするけど。
中也は、とうとう真冬に背を抜かれたかもね。
(指輪…はしてないのか……?)
真冬の白い手は刃物を扱う者の手だけど、だからと言って銀の指輪の扱いを疎かにするような人じゃない。
福沢社長も、乱歩さんも、そしてあの燃えた隣町の知り合いの方も真冬と社長が結婚しているみたいな事を言っていた。
信じていないけれど、真冬の手練手管は一級品だから。
あの彼も嘘がうまいのは、真冬のそばにいた時が長かったからっていうのもあるよね。
信じていない。
あの真冬が、誰か一人のものになるなんてあり得ないとさえ思っているから。
「……何か気になる事でもあるのかや」
「え?」
「そういう目だ、今のは」
妾を誤魔化しきるにはまだ少し早いと彼女は余裕そうに笑う。
……嗚呼……敵わないなあ。
私の言いたい事が先に伝わるなんて、口にしていないのに悟られる事ほど気恥ずかしいものはないだろう。
「うん。
そりゃ、マフィアにいた時もそういう任務で真冬が偽装結婚しているのは何度も目にしていたし、普通に標的と一夜を明かすし、だからピンと来なかったのだけれど……」
嗚呼、言えば良い。
はっきり言うのが嫌なのだと。
それなのに私は本心では直球の答えを聞きたがっている。
「真冬って……社長と、どういう関係なんだい…?」