第35章 荘厳は淑やかに
「……冗談?」
「うん、冗談」
本当にそれでいいのかと決断の鈴は鳴り響く。
真冬の領域を侵犯した時に警鐘となって耳朶を打ったもの。
仕方ないじゃないか。
そんな急速に現状を切り崩していったら、すべての機関に影響が出る。
この2年間に積み上げていった現状維持の歯車は、この一言を否定するだけで狂ってしまうのだから。
そんなもの……私には似合わない。
昔の上橋菜穂子が気に食わなくていつも態度を冷たくしていた理由なんて、この同族嫌悪的な何かではないのだろうか?
今となっては昔の私は真冬を失う怖さを知らなくて、上橋菜穂子の全てを軽んじていたのかもしれないけれど。
「それならば、貴様はゴールデンラズベリー賞を狙えるな」
「それって一番最悪な映画の評価をするやつじゃなかったっけ」
当たりだ、と真冬は笑う。
これで良いと思った。
確かに物足りなさは心に はびこり、真冬を手に入れたという結果に塗り替える事は出来なかったけれど。
「……出よっか。のぼせてしまうしね。
する事はたくさんあるよ………
お仕置きもでしょ、あと話もたくさん聞きたいなぁ。」
そう……あとは、
「あ。真冬が真冬の名前になった時の事とか……
どうして福沢社長と……」
福沢社長と……?
そこまで口走ったところで、私はさっと顔を青ざめさせた。
「……これ……
絵面的に…すっごくまずいんじゃ……」