第5章 そのバーに集まる影
「別にね、可愛いお洋服が嫌いなんじゃないのよ。
むしろ好きよ。だって可愛いもの。
でもリンタロウの必死さが本当、いや!」
言われてるねぇ…と真綿が引き笑いを堪えながらも
その首領執務室の両開きの扉を開けて、エリスと共に入る。
「エリスちゃん!
見給え、この襞!まるで血の色の花弁だろう?」
「聞いてよ真綿!!こういうリンタロウの例えもいや!」
エリスが、森に差し出されたスカァトを『嫌々』する。
「真綿君、済まないね、エリスちゃんの迎えに行ってもらって」
「否、エリスがこちらに来たのだ。
…ところで森殿、そろそろ通報が必要そうさね?」
冗談交じりに軽口を叩けば、森も楽しむように乗った。
「ひどい!聞いたかい織田君、今の真綿君の言い草!」
「…む。」
しかし、森の嘆くようなわざとらしい返しには介さず、突然真綿が耳を研ぎ澄ませた。
真綿が横にいたエリスをかばうかのように
若干、わずかに身体をエリスの方へと寄せる。
エリスを危害から守ることは、あるじである森に命じられた項目でもある。
「嗚呼、すまない、さっき呼んだものだから。
君に言い忘れてしまった。
警戒しないでくれ給え、真綿君。
彼は織田作之助。」
扉の前に控えた、背の高い、自然な色素の赤髪がそよぐ。
天然そうな雰囲気に、感情の乏しい表情…
「織田です」
凛とした響きを残す低い声が、静かに聞こえた。