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威 風 堂 々【文豪ストレイドッグス】R18

第35章 荘厳は淑やかに







「今は……の」


浴室のざらりとした半透明のドアが閉められた。

きゅっとシャワーのノズルが捻られ、さぁっと小雨のように二人を濡らす。



切り出した真冬の声が静かに反響して、曇ってゆく鏡から黒瞳が薄まる。
そのさまに何か嫌なものを感じて、シャワーからはじけたお湯で鏡の靄を払い除けた。




「目の前にいるというのに、どうして妾が消えようか」

「うん……判っているけれど」


水滴は真冬の首筋を滑り落ち、しばし鎖骨に留まってから脚を伝って排水口に吸い込まれる。
真冬の沐浴中の姿を、こんなにも近くで見たのは初めてだった。


僅かに火照り、淡い色のついた柔肌に指を這わせて
臀部の傍にあったほんの少しの刀傷をなぞる。

この傷は……
4日ほど前、バージンキラーから軍警を守った時についた傷……かな?

鏡の中の私を見つめていた真冬が、薄く唇を開く。




「今のあるじ殿がね……福沢殿なのさね」



「……………え?」



不意にそう言われた言葉に理解がついて行かない。
否、ついて行ったけれど脳がその言葉を正常に理解しなかった。

まるで、明日隕石が落ちてくるというのに傘で防げる雨を扱うかのような……



「いつしも2度目があると思うなよ?
今のあるじ殿が、社長なのさ」


「……嘘…?」


「じゃあないな」



言い切った真冬の目は私を見ない。


だんだんとまた、曇ってゆく鏡。
それに合わせるように曇る視界。

ぐらぐらと揺れる目の前を何て言葉で言い表そうか。


君は、また、まだ––––……!





「どうしてだい……?

なんで、いつ、だって真冬は
森さん以外の人に仕える気なんてなかったじゃあないか……」



また。まただ。
また、裏切られたかのような気分になる。



ぽたぽたと真冬の髪から水滴がしたたる。




私の知らない真冬がこれ以上増えてゆくのが

こんなにも不安で不快だなんて



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