第35章 荘厳は淑やかに
「……治」
「なーに?」
ぱさ、と真冬の足元に真紅色をした帯が垂れ落ちた。
肌を滑る純白の着物に、襦袢の紺色もはだける。袴も。
その白い肌を滑り落ちた長い黒髪も、真冬の背中を煙らせる。
私は真冬の声を背後に聞きながら、目を閉じてシャツを脱ぎ、洗濯機に放り込んだ。
そんな中でも、音すら聞こえないこの空間からひしひしと
脱いだ背中に突き刺さる視線。
「…………。」
「視線が熱いんだけど〜……?真冬」
「否、もう何も言うまい……。」
あ、今肩を竦めたのが背中越しに判った。
真冬の体温なんてもう覚えていない。
二年間も音信不通どころか、私は、真冬は……もう……
「妾が目の前にいると言うのに考え事とは……大した度胸よな?」
「ごめんごめん、そういう事じゃなくってさ……」
たしかに聞いたんだ。
君がいなくなった直後の嫌な空気の感じも、察知出来た。
……でも…もし、もしも
もしかしたら、もう少し早ければ、織田作もって……考えてしまう。
「ほら……お風呂、入ろう?
真冬に……触るの、何年ぶりかな」
真冬の長い髪から、今の真冬の家の匂いなのか……それとも、他の誰かの匂いなのか判らない香りがして
気に入らない。
「……この匂い……乱歩、さん?」
かもしれない。
すごく嗅ぎ慣れた、仲間の匂いだったから……
でも……着物は洗濯出来ないから、柔軟剤の香りじゃあないってことだよね?