第35章 荘厳は淑やかに
「……っ、ぃ、たかっ……」
「もう一度言って?
今度こそ私にも判るように……ね?」
さっきまで私に気道を塞がれていた真冬にそう言って
腕の中を見遣る。
真冬がいなくなったことを
裏切りだとかそういう風に考えたことはないけれど……
でも矢ッ張り根に持っているのは確かなんだ。
憎くて、恨みつらつらで、君が私に言ってくれたことを
当然のように破ってしまった私が憎かった。
笑えって言ってくれたのに笑えなくなった私も、その理由を作った真冬も憎かった。
「会いたかった」
「会いたかった?」
「会いたかったよ」
真冬の言葉を聞き返せば、
今度こそきちんと答えてくれる声があった。
私だけじゃなかったのかも、なんて思わないけれど
それでも……私は、2年前からずっと
なんて
そんな事……あの時
「ねえ……もう、夜中だしさ……
明日、土曜日でしょう。明日たくさん話そう?ねえ?いいだろう?」
言わなくちゃいけなかったのに
今さら言ったって
「失って初めて気付くんだなって思い知らされた。
当たり前のようにそばに居たのに、居たからこそ伝え忘れた言葉がたくさんあって
それを伝えずに引き裂かれる事が……どれだけ、自分の中に留まって何もかもを止めてしまうのか……」
時効切れで
もう遅いでしょ?
「……今日はもう……ゆっくり寝よ?お風呂は入るでしょ?」
「え?あ、あぁ……」
真冬が、意外なものを見るような瞳で少しだけ驚いてから頷いた。