第35章 荘厳は淑やかに
「ねえ……真冬は……?」
横たわってこちらを射抜く双眸は何を考えているのか判らないけれど……
立ち止まることも後戻りも許されないけれど
結局、真冬を追い越すことも出来なかったけれど
「……待ってたよ?
私は、私自身が真冬に追いつくこと」
でも、追いつくことならやっと出来た気がしたのさ。
今だけは。
二年間も同じところに停滞していたなんて、本当、私らしくなくて笑っちゃうよね。
「……ね、だから真冬……
私に会えて、嬉しい?なんて……聞いてもいいかい……?」
何も言わない真冬の唇に指を運んで、親指でその唇をなぞる。
ゆっくりと、開かせるようになでた。
咥内に指を滑り込ませて、真冬の舌を指で押さえつけた。
聞いておいて喋らせないとか、私も意地が悪いかな。
「……っん…ぁ」
「なーに……? 判らない。ちゃんと言ってよ?
会いたかった?なんて聞けないけど、こうやって……
奇跡みたいに、もう一度だけ会えて……嬉しい…?真冬は」
真冬の唇の感触が指を咥えていて
私の理性とか、今までの憎悪とか、諦観とか……
ダメそうなやつまで腹の中から湧き上がる。
「ねえ……お願い……答えて?
真冬を殺そうとした私が、こんなこと言うのも……信用性に欠けるかもしれないけれど。
私は君に会う、その動機だけがこの二年間の糧だったんだ。」
「そんなことで……妾を、延々待っていたと……?」
「そんなこと、で充分過ぎると思うけど?」
ごもっともだ、と真冬が笑った気がした。
直視した現実に背いて逃げて
でも最後はちゃんと直視しないと行けない訳だから……
なんて言う損な役回り。
真冬が、だけれど。
「ねえ、思い…出した……?思い出して?
会いたかった、真冬……」