第35章 荘厳は淑やかに
「会いたかった」
自然と口から溢れた声は、憎いだの置いていっただの
真冬に散々いった後の今、まるで負け惜しみのように低かった。
「会いたかった」
真冬はなにも言わない。
真冬は?なんて問う私でもないけれど、真冬が何か言うまでは私だって言うよ。
「会いたかった」
信じて待っていた訳じゃない。
誰かが言っていた。
精密な機関ほど……
些細で稚細な改変はすべてを台無しにしてしまうと。
誰だったっけ?
あの彼だっけ?
彼が、あの上橋菜穂子の、今では考えられない彼女の臆病さをそう例えて言っていた気がする。
「会いたかったんだ」
昔の私は、現状維持に逃げたあの彼女がただ疎ましくて、いつも冷たく当たっていた。
お陰で会えば震えられるようにまでなったんだっけ。
今では考えられないけれど。
「私は逃げない。
絶対にもう立ち止まらないよ。
現状維持なんて、懲り懲りだ」
だから会いたかったと口にする。
口にするだけ彼女を問い質すことが出来る。
「会いたかった。
会いたかった、真冬……」