第35章 荘厳は淑やかに
「……どうして……?」
私は尋ねた。
どうして、と聞いておいて何をどうしてほしいのか私が一番判ってない。
君に聞いてそんな簡単に君から答えを得るなんて
昔の私と君との関係なら、あっさりあしらわれていたかもしれない。
自分で考えないといけないよ、と。
言葉にしないと自分の中で間違うから、と。
真冬の唇が、小さく動いた。
「言葉にしなければ……
伝わらないものもあるだろうさ」
––––嗚呼ほら、私は変わらない。
あの日のように、君から簡単に、手順さえ億劫がって答えを聞きたがったずるい私のままだ。
どうしよう。
どうしたらいい?
どうしてなんて、私が……
「……治」
不意に腕の中の彼女が吐息するように呟いた。
私はなに、と言う。
「今の治が考えていること……妾には判る…」
「なんで……?」
そんなに判りやすい顔なんてしてないはずだけどなぁ。
国木田君にだって判りもしないはずなのに。
「昔の治が浮かべた、あの泣きそうな顔と変わらない……
自分のあやまちを判っていて、反省も嫌悪もしている」
嗚呼ほら、それを聞いた直後、私の喉からは反射のように言葉が飛び出た。
嫌なものが胸に閊えて、熱を持った何か。
腕の中の彼女を私はほとんど絞めつけるように抱きしめていた。
「私は、そんな綺麗な人間じゃない!」
どうして、
どうして真冬は……
私を、過去のことのように言ってるの?
突き放そうとしてるのかい?
「どうして、真冬は……こんな私を
昔と変わらないだなんて言えるの……?」
実際、言葉にしてみて
私の中で整理がついたとは言えないような
そんな居心地の悪さを感じた。